移り変わる村の暮らし 学んでつなぐ
奥琵琶湖の最北端、長浜市西浅井町菅浦で開かれた村歩きに参加しました。案内役は、専業漁師の長澤康博さんと、料理旅館のご主人岩佐達己さん。二人は1951年生まれの同級生。かつて船しか交通手段がなく「陸の孤島」と呼ばれた時代から、道路開通や琵琶湖の埋め立てなど、時代ともに変わる古里の景色を見てきました。
印象に残ったのは、かつての暮らしの跡。遠くの田から船で運んできた稲を干したという稲場跡や、湖から生活用水をくみ上げるために使ったという小さな桟橋。浜の船溜まり跡で岩佐さんが「いつも村人の船で混み合っていた」と語ると、長澤さんが「漁師は誰より早く湖に出られるように沖に錨を入れて停めていた」と思い出します。村人が協働で作業したというみかん畑や、昆布巻きの作業場跡、今も稼働するヤンマーの家内工場など、時代ごとに生業を変え、たくましく生きてきた村人たちの光景が、話を聞く私の目にも浮かぶようでした。
今回の企画をしてくれた長澤さんの長女の由香里さんは「菅浦に関心を寄せてくれる人と地元の人が出会うことで、お互いの暮らしている場所を大切に思い合うことができれば」と語ります。住むところがコロコロと変わる根無し草だった私にとって、古里を大切に思う気持ちは憧れのようなもの。先達の暮らしを学び、今を大切に生きることで、いつかこの暮らしに郷愁を持つことができるといいな。(2018年6月・朝日新聞滋賀版)