被災の伊香具神社 村人の力結集
大音には、伊香津臣命いかつおみのみことをご祭神とする「伊香具神社」が鎮座されています。口伝では白鳳時代に建立と伝わり、少なくとも平安時代には、当時の朝廷によってまとめられた「延喜式神名帳」で大社として記載されるなど由緒ある神社です。
鳥居の形が全国的にも珍しく、横一列に三つの鳥居が並ぶ「三輪式鳥居」と、本体の鳥居を支える形で稚児柱のある「厳島式鳥居」が組み合わさった形で「伊香式鳥居」と呼ばれています。後方に山がそびえる一方で、かつては神社の前に入江があったとされることから、山と海の特徴を併せ持つのでは、と考えられているそうです。
9月初め、村の人たちの信心深さを知る出来事が起きました。直撃した台風21号が、境内にある樹齢200年を超える杉の大木を次々となぎ倒し、そのうちの一本が拝殿を潰してしまったのです。あまりに痛ましい光景に、よそ者の私は近寄ることも申し訳なく思いましたが、みんなは「宮さんを放っておけない」と、連日通い詰めていました。
二ヶ月が経ち、深刻だった境内も今ではすっかり片付きました。拝殿の再建など課題はありますが、61代目神主の伊香忠雄さんは「氏子の力をみせてもらった。神主として幸せ、村を誇りに思う」と感謝します。
先日、息子の初宮参りをしました。村の人たちのお宮さんへの思いに触れ、前よりも少し神様を身近に感じながら、息子の成長と村の平安をお祈りすることができました。
(2018年11月・朝日新聞滋賀版)