自慢の竹箸は、町工場の工芸品
店でお食事していただく際にお出ししている竹箸。お客様からは「使いやすい」と大変評判で、販売して欲しいと頼まれることもしばしば。
素材は、表面に胡麻状の斑点が浮き上がっているのが特徴の「胡麻竹」と呼ばれる高級竹材です。ブツブツとした感触が箸を握る手に滑り止めのように作用して指がずれにくく、先を細く仕上げているため、少しの力で肉や魚の身を切り分けられ、豆など滑りやすいものも上手につまむことができます。
実はこのお箸、森下君が作っています。木之本に移住して来る前、森下君は湖南市石部の「むらおか工房」という竹工房で約3年間働いていました。
親方の村岡文隆さんは、20歳のときから、京都で伯父さんが営む竹工房で修行を積み、45歳で実家のある石部に戻り独立。団扇や扇子立て、色紙立てなどの竹製品を作り、京都のお店におろしています。
仕事は村岡さんのほか、妻の寿子さん、三男の良幸さん、パートの辻薫さんの4人で仕入れから出荷まで全てを担う家内制手工業。森下君もその一員として働く中で、村岡さんの職人としての誠実な仕事ぶりや、度量の大きさを尊敬し、慕っていました。
木之本への移住が決まり、お店を開くことになったとき、村岡さんが工場の道具も材料も提供して作らせてくれたのがこの竹箸でした。お客様から使いやすさを褒めてもらうとき、私たちが嬉しそうにするのは、応援してくれる村岡さんの顔を思い出しているからなのです。 (2018年10月・朝日新聞滋賀版)