季節の手仕事、贅沢な逸品
山椒の竿取り、梅のヘタ取り、ラッキョウの掃除。季節の手仕事は、面倒な作業が多いもの。でも、一年に一度だけ、その時期にしか出合えない作物を少しでも長く楽しめるように手間暇をかけて保存する。とっても贅沢で、幸せな逸品です。
台風の前日、森下くんが畑の栗の木から、落ちた実を拾って来てくれました。そこで台風の日は、二人で家にこもって渋皮煮と甘露煮づくり。熱湯に浸して柔らかくした鬼皮を、ひとつひとつ傷がつかないように、丁寧に剥いていきます。
渋皮煮は、重曹を入れたお湯で固めに茹で、指の腹で表面を掃除したら、茹でて冷ましてを繰り返し、すっかりアクが抜けたところで砂糖を加えて仕上げます。
甘露煮は、皮を剥いた実をクチナシでやまぶき色に染め上げて、シロップ煮にします。途中で崩れてしまった実を二人で味見。濃厚な栗の香りと優しい甘さにとろけそう。もう一粒、と手を伸ばしたいのをグッとこらえて、煮沸消毒した瓶に汁ごと詰めて完成です。
渋皮煮はとっておきのお茶請けに、甘露煮はお正月に食べる金団に使います。瓶に詰まった実は、どちらも宝石みたいにキラキラ輝いて、食べてしまうのがもったいないくらい。
「こんなに苦労して作っても、食べるときは一瞬だよね」と私が言うと、大変な皮剥きを引き受けてくれた森下くんは、「本当は誰にもあげたくないけど、君には6粒あげる」だってさ。
(2018年10月・朝日新聞滋賀版)