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秋の一日は、夏の一週間


 記者は「情報」という形のないものを売るのが仕事です。各地を飛び回り、得た情報を記事にすることにやりがいを感じていましたが、農業や漁業など、地に足をつけて形あるものを作り出す人々に出会ううちに、その暮らしに憧れを抱くようになりました。

 退職後、一番に畑を借りました。野菜を育てるようになると、生活が徐々に変化していきました。

 まず、雨が憂鬱でなくなりました。雨なら水やりに行かなくて済むし、降り出す前に苗を植えておけば定着もしやすい。翌日には、土が軟らかくなって草も引きやすくなります。

 次に、食卓が変わりました。都会育ちの私は一年中スーパーに並ぶ野菜を食べていましたが、やっぱりきゅうりは夏が美味しいし、冬のほうれん草は甘くて最高です。

 そして、季節に敏感になりました。雪が融けだす頃、ふきのとうに出会ったら春野菜の準備を始めます。山椒の新芽を摘む頃にジャガイモを植え、青梅でシロップを作る頃にトマトやナスを植え付けます。盆過ぎ、暑さが落ち着いてきたら、白菜やブロッコリーの種を蒔く時期です。

 「秋の一日は、夏の一週間」とは近所のおばあさんの金言。せっかく育てた苗も、秋は定植の時期を逃すとうまく育ちません。秋雨の合間の晴れの日、冬野菜の苗をせっせと定植しました。

(2018年9月・朝日新聞滋賀版)

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